滝本秀隆 短編小説シリーズ 第12作「ドリームホール」

ドリームホール

庭の手入れをしていたら、芝生の一角になにやらもやもやとした影が現れた。
「何だ?あれは」
見ていると、影はまもなくはっきりとした形になった。
「穴だ!」
直径80センチほどの穴が、突如出現したのである。私は庭の地盤が陥没したと思った。穴の周りも陥没する恐れがあるので、おそるおそる近づき、穴の中を覗き込んだ。
穴の中は、漆黒の闇だった。不思議な穴だったが、庭にこんな大きな穴が開いていたら危険で仕方がない。そのうちに埋めるしかないだろう、と思った。

ゴミ出し日のある日、私は生ゴミを出そうとし、ふと思った。そうだ、どうせ埋めるのなら、あの穴の中にゴミを捨てよう。
私は穴の中にゴミを捨てた。ゴミは吸い込まれるように穴の中に落ちていった。不思議なのは、いつでも待っても穴の底に落ちた音がしないことだった。
「どういうことだ?この穴は底無しなのか?」
私は試しに、粗大ごみ出し日に出すつもりだった、壊れたトースターや古いパソコン、古新聞、古着なども庭に持って来て、ばんばん穴に捨てた。やはり、どんなものも穴の中に吸い込まれたまま、着地する音はしない。
宇宙には、ブラックホールというものがあるらしいが、この穴もブラックホールの一種なのではないか?
どんなものでも飲み込んでしまう、庭のブラックホール。私は、ピン!と閃いた。この不思議な穴を利用して、商売をすることができるのではないか!?この日本には、様々な不用品をはじめ、モノを処分したいと考えている人は多い。中には非合法なモノや非常に危険なモノなど、一般の処分業者に頼めず困っている人もいるだろう。そういうヤバいモノの処分なら、高額の処分料を取れると思った。しかし、あまり派手にやると廃棄処分法違反になってしまう。
私はまず地元系のフリマアプリを使って、広告を出した。
ーーーどんな物でも完璧に処分します。不用品からペットの屍体まで。ーーー

意外にも、広告のレスポンスは良かった。一般廃棄できない物の処分に困っている人は多いようで、多くの問い合わせがあった。処分料金の設定は、依頼者と話し合って決めた。
私の家は、普通の住宅街にある。大型トラックに廃棄物を満載して持って来てもらっても困る。そのような専門業者からの依頼は断り、逆に個人が持ち込む不用家電なら、無料で処分を引き受けた。

ある日、くぐもった声の男から電話があった。
「お宅は、少々ヤバいモノでも処分してもらえると聞いたが?」
「どんなものでも処分いたします。モノは何です?」
「死体だよ」
私の身体に戦慄が走った。この男は殺し屋なのか!?
「それは、ヤバい死体なのですか?」
「だとしたら?処分料は、5百万だ。悪くない金額だろう?」
「そうですね、お引き受けしましょう」
数日後、自宅前に黒いワンボックスカーが止まった。依頼人と私は、大きなダンボール箱を車から降ろした。
私はダンボール箱から男の死体を取り出し、素早く穴の中に放り込んだ。かなりヤバい仕事であることは自覚していた。だが、死体であれ何であれ、穴の中に投じてしまえば、何の証拠も残らない。例え警察が自宅に事件の捜索でやって来たとしても、何の痕跡もないのだ。
怪しい男の死体処分依頼は、その後も度々あった。さらに、男から紹介を受けたと言って、また別の人間からも死体処分依頼があった。殺し屋達はいったいどれだけの数の人間を殺しているんだ、とあきれたが、そのおかげで私の方は大幅に売上げが上がった。
その後、私の商売は死体処分専門に切り替え、儲けにならない雑多な物の処分は断るようにした。

アフリカ・セネガル。世界の貧しい国ランキングで常に上位に入っているこの国では、学校にも行けない多くの子供がいる。
乾燥した平原で遊んでいたひとりの少年の前に、小さなつむじ風が起こった。風が止むと、地面に直径80センチほどの穴が開いた。驚いた少年が呆然として見ていると、穴から電機製品や衣類などあらゆる物が吹き出てきた。
「うわっ!すごい」
それらは、少年にとって宝物ばかりだった。壊れた電機製品や古着でも、日本製のそれは高く買いとってくれる店があったのだ。
しかし、ある時から穴からはお宝が出て来なくなった。

「なんだよ、出てくるのは死体ばかりじゃないか!」

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