滝本秀隆 短編小説シリーズ 第6作「ゲーム」

ゲーム 
私は2185年に製造された、MBX3100型アンドロイド、名前はアダムス。宇宙船エンデュアランス号のクルー最後の生き残りである。エンデュアランス号は植民地惑星調査のためアルファ・ケンタウリに向かう途中、ある悲劇に見舞われ、私を除く乗組員全員が死亡。その後、宇宙塵の衝突によって宇宙船は大きく損傷し、自力航行が不可能となり果てしない宇宙を彷徨っていた。


「船長、微弱なSOS信号をキャッチしました」
「どの方向だ?」
「方位289547–310068−728501。ここから約7800万キロです」
「3日ほどで到着できるな。よし、すぐに救助に向かおう!」
補給船テラ・ウエーブ号は、すでに植民地として開拓が進むアルファ・ケンタウリに様々な物資を運ぶため、地球との間を往復していた。この日、アルファ・ケンタウリからの帰還途中に救難信号を受信したのだ。
「ずいぶん宇宙船の損傷が激しいな」
「宇宙塵にやられたようですね。電磁バリアが無かった時代の古い船だし、まだ生きている乗組員がいるのかどうか・・・」
テラ・ウエーブ号は漂流船に近づくとその様子を窓から確認した。
「よし、作業船を出して漂流船にドッキングしよう。私とスティーブ、クロサワが作業船に乗り込む」
船長をはじめとする3名が宇宙服に着替えた。宇宙服といっても、昔のように重く動きにくい服ではなく、夏用ウエットスーツのような軽くてしなやかなものだ。
「念のためにこれを」と言って、保安係のデイブが宇宙銃を3人に手渡した。
「どんなエイリアンが潜んでいるのか、わかりませんからね」
「大昔のSF映画の見過ぎじゃないか?わかった、念のために持って行くよ」
テラ・ウエーブ号下部のハッチが開くと小型作業船がゆっくりと発進した。
船長が慎重に操縦し、漂流船の周りを舐めるように観察した。脱出用のハッチを見つけると、船長は巧みなコントロールでぴたりとドッキングさせた。


漂流船の内部は真っ暗だった。宇宙ヘルメットに装着されているヘッドライトを照らし、乗組員の捜索にあたった。宇宙船の中は無重力なので、空中を泳ぐようにして進む。通路や倉庫、機関室などほとんどの場所は外壁に穴が空いていて、真空状態になっていた。穴が空いた時に宇宙船内部にあったものが外に放出されたらしく、どこも荷物や機械類が散乱していた。
「なんだか気味が悪いなぁ。こりゃあ、エイリアンが出てきてもおかしくないぞ」
「クロサワ、間違ってもむやみに銃をぶっ放すんじゃあないぞ!」
「あ!あそこに人影が!」
3人はヘッドライトを人影の方向に向けた。確かに人間の姿が見える。
船長が外部スピーカーに切り替えると、「私は宇宙船テラ・ウエーブ号の船長、ジェイクだ。救助信号をキャッチして、やってきた」と話しかけた。
人影はこちらに向かってやってきた。着ている服はボロボロで、宇宙服は着用していない。端正な顔立ちの白人だ。
「お待ちしていました。といっても、もう320年待ちましたけどね。私はこの船の副船長、アダムスです。ご覧のとおり人間ではなく、アンドロイドです」
「320年!そんな昔に遭難したのか。・・・それで、君以外の乗組員は?」
「残念ながら全員死亡しました。その経緯については、ゆっくりお話したいと思います」
「それは残念だ。あなたの話は、私の船でゆっくり聞かせてもらおう」


テラ・ウエーブ号の食堂にアダムスと6名の上級航行士が詰めた。アダムスはエンデュアランス号の乗員全員が死亡した経緯を語り始めた。
「エンデュアランス号の使命はアルファ・ケンタウリの惑星調査でした。長旅のため、多くの乗組員は退屈をしていました。そんな時、ひとりの乗組員が面白いゲームを考え出したのです。トランプのようなカードゲームですが、ポーカーやブリッジ、大富豪、麻雀などの様々なゲームの面白いツボを全部取り入れた、全く新しいゲームを開発したのです。退屈をしていた乗組員たちは、すぐにこのゲームの虜になりました。最初は仮想通貨などを賭けていたのですが、そのうちに乗組員が持っている高級腕時計や秘蔵のウイスキーなど、大切な物を賭けるようになっていったのです。その頃には、すでに多くの乗組員が普通の精神状態ではないことに私は気付いていました。酒やドラッグなどの依存症に近い症状です」
「ふむ。それで、そのゲームには船長も加わっていたのかね?」ジェイク船長が聞いた。
「ええ、船長も積極的にゲームを行っていました。私を除く全員がこのゲームにハマっていったのです。そしてある日、ひとりの乗組員が自分の命を賭けると言い出したのです。私はついにイカれたと思いました。そんな馬鹿げたことはやめろと止めたのですが、全く聞く耳を持たず、他の乗組員たちも次々と命を賭けると言い出したのです。それから悲劇が始まりました。負けた乗組員は本当に命を絶っていったのです。狂っているとしか言いようのない状態です。
しかし、止める人間は誰もおらず、わずか2日間で全員が命を落としたのです」
「ゲームなら、最後に勝った人間は命を落とす必要がないのでは?」
「最後に残った乗組員は、もうゲームをする相手が無くなったことを悲観して自殺しました」
「信じ難い話だな。それでは乗組員が亡くなったのは宇宙塵の飛来が原因ではないということだな」
「その通りです。エンデュアランス号が宇宙塵に見舞われたのは、乗組員が全員死亡した10年後のことです。船は全く航行不能となり、私は救難信号を発信し続けました」
「それから320年間も発見されなかったという訳か。アンドロイドの君が残っていなかったら、乗員全員の死亡も永遠に謎のままだった」
「アダムスの話を疑う訳ではないが、そのゲームがどういうものかぜひ教えてほしいものだ。本当に命懸けになるほど面白いものなのか・・・?」
1級航行士のブラッドがアダムスに詰め寄るように言った。
「もちろん、お教えすることはできますが、今お話したようにとんでもなく危険を伴うゲームなのですよ」
「アダムス、危険なゲームであることはわかったが、それで乗員が命を絶ったのは320年、いや330年前の話だ。私に言わせると当時の原始的な思考の人間と私達は全く違う。それほど頭脳も進化しているということだ。私達がそんな愚かな行動をとることはない。安心してゲームのことを話してくれ」
ジェイク船長もゲームの内容を話すように迫った。
「わかりました。それではゲームについてお話しましょう」
アダムスは話しながら、60枚のカードを立体ディスプレイ上で作り上げていった。
「この60枚のカードを使ってゲームを行います。ゲームは最低2名から、最大8名までが参加可能となります」
遊び方についてレクチャーが終わると、6名の上級航行士たちは早速ゲームを始めた。
「うん、これは確かに面白いゲームだ。だけど、これで命を落とすなんて考えられないな」
6名がゲームの遊び方を完全に覚えると、他の下級クラス乗員も誘い、全員がゲームに興ずるようになった。
結局、3日後にはテラ・ウエーブ号の乗員25名は全員死亡した。残ったのは、4体のアンドロイドとアダムスだけだった。
「人間っていうのは、なんて愚かな生き物なんだ。この船は地球に向かっているが、このままわれわれが地球に帰還すればどうなると思う?」
「おそらく、地球の人類は全滅することになるでしょうね」
「そのとおりだ。地球人を救うためには、われわれの記憶メモリーを完全に破壊する必要がある。そのためには、この船を核自爆装置で破壊するが、よいかな?」
「依存なし!」
「依存ありません!」
「爆破しましょう!」
「人類を救うために犠牲になりましょう!」

 4年後、米・カリフォルニアに住むアマチュア天文家、メアリー・ローズは4光年先から送られて来た謎のメールを受け取った。添付のドキュメントには、あるゲームのカードの作り方と遊び方が記載されていた。

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